日本人失明原因1位の緑内障 40歳以上の20人に1人が発症
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日本人失明原因1位の緑内障 40歳以上の20人に1人が発症



老後の健康問題で最も辛いことは何か。意外にも、いつかは誰もが迎える「死」より「目が見えなくなることのほうが辛い」という人は多い。都内在住の60代男性がこう振り返る。

「異変に気付いたのは50代後半の頃でした。ある日、ゴルフでティーショットを打って打球を目で追ったら、視界からフッとボールが消えたんです。その時は気にしませんでしたが、後日、コンビニでおカネを渡す際に店員の上半身だけ見えないということがあった。さすがにこれはおかしいと思い、眼科を受診したら『緑内障』と診断されたんです」

 現在この男性は症状が悪化し、左目は全く見えず、右目の視界はかつての半分程度になった。屋外ではわずかな陽光でもまぶしく、サングラスをかけなければ外出できないという。

 緑内障(開放隅角緑内障)は目と脳をつなぐケーブルの役目をしている視神経の繊維が減っていく病気で、徐々に視野が欠けていく。視神経が徐々に減ると、初期状態では減った神経が認識していた部分の視野が見えづらくなる。中期になるとその見えない部分が徐々に広がり、末期ではほぼ全体が見えない部分で埋まって、目の前が暗くなる。最悪の場合は失明に至る。

 日本緑内障学会の大規模疫学調査「多治見スタディ」によると、推定患者は約400万人で、40歳以上の約20人に1人が発症している。『緑内障の最新治療』(時事通信社刊)の著者で、彩の国東大宮メディカルセンター眼科部長の平松類氏が次のように語る。

「実は、日本人の失明原因の第1位は緑内障です。私の患者さんでも症状が悪化していて、来院時には既にほぼ見えなくなっていたという方が少なくありません。私の感覚では男性は放置して悪くなりがちです」

 厚労省の調査(2008年)では、失明した人のうち、緑内障の割合は20.9%にのぼる。

 タレントの大橋巨泉(82)は1999年に緑内障と診断され、度々メディアで失明への恐怖を語ってきた。2014年放送のNHK朝ドラ『花子とアン』で仲間由紀恵(36)が演じた蓮子のモデルである歌人・柳原白蓮は、晩年に緑内障を患って両目を失明した。その時の辛さをこう歌に詠んだ。

〈月影は わが手の上と 教えられ さびしきことの すずろ極まる〉

 民進党の柿沢未途衆院議員の母で、「緑内障フレンド・ネットワーク」代表の柿沢映子氏(77)は、49歳で緑内障と診断された時、既に左目は失明し、右目の視野も奪われ始めていた。

「異変に気付いたのは診断の数か月前でした。車の運転中、センターラインをオーバーしたり、縁石に乗り上げるようになったのですが、老眼が進んだだけだと思っていた。視力が悪くなるわけではなく、視野が欠けるだけなので、上や下を向けば見えるんですが、ついにはあるはずの信号まで見えなくなった。それで運転をやめました。

 その後、友人の勧めで眼科を受診した際に視力検査で右目を覆った途端、目の前が真っ暗になった。『明かりを消されちゃ見えないわよ』って言ったら、『電気、点いてますよ?』と言われてやっと事態を把握した。

 失明まであっという間だったので、正直、恐怖を感じる間もありませんでした。いま何とか右目の視野は1割残っていますが、いつも針の穴を通して物を見ているような状態です」

 緑内障の最大の問題は、1度欠けた視野は回復しない点だ。そのため緑内障と診断されても、進行を抑制する以外の処置はない。にもかかわらず、初期の自覚症状がほぼないところに怖さがある。

 前出の多治見スタディによると、緑内障患者のうち、9割は自分の病気に気付いていなかったという。初期状態では進行していないもう一方の眼や脳の働きによって全てが見えているかのように補正してしまうため、緑内障と分かった時には末期だったという例は少なくない。

※週刊ポスト2016年5月20日